夏の花火や冬場のイルミネイションを二人で観に来ていながら、
恋人の顔ばかり眺めるカレ氏だと気がついて。
カノ女がやや膨れて、
何で観ないの?綺麗だよ?、と
楽しいのは私だけなの?と不満げに促せば、
男はにっこり、若しくは照れくさそうに笑って見せて、
キミの方がとても綺麗だから見とれていたんだよ、なんて
歯が浮きそうなことを言う展開…は、
もはや定番なのを通り過ぎ、
鳥肌が立ちそうなほどの典型句となりつつある
“…と思ってたんだがな。”
そっか、
そんなステレオタイプなことを今更…なんて言う奴は
そういう状況っての自分で経験したことがないのだなと。
赤や青やダイダイ、華やかに天空を彩る花火の光に照らされる横顔の、
何ともあどけなく素直な笑顔であることかに見惚れてしまって
どうしても目が離せぬ身となっている自分へ、
困ったものだと苦笑が絶えぬ中也だったりし。
時折吹く潮風のおかげで薄められているものの、
汗の匂いやバラバラなデオドラントのそれだろう微妙な香りが入り交じった、
好きに動き回れぬほどぎゅうぎゅうとした人出で混み合う雑踏の中。
知らない奴の肩や背がくっついてるほどの混みようだから、
そこまで見降ろされまいよと言って
はぐれないよう、下ろした手と手をつなぎ合い、
見上げるのは昼間の快晴をそのまま暗転させた濃藍の夜空で。
どぉんという重々しい音をお囃子代わり、
次々に揚がる花火に、周囲の顔ぶれと一緒におおうと唸って見惚れてる
…のは、連れだけで。
夜陰の中に浮かび上がる白銀の髪色と色白な頬と
それもまた見慣れない浴衣の襟からすんなりと伸びる細い首。
形のいい後ろ頭の真下のうなじが、
白さといい細さといい何とも言えぬ柔らかな印象で。
最初はそちらにちらちらと視線が行っていたものが、
時折、わあと呟いているのだろう口許を小さく開くまだ幼い横顔もまた、
ああそういや滅多に見られぬのだ、と気がついて。
いつもいつも含羞みながらこちらを真っ直ぐ見やる彼なので、
自分をほっぽいて何かに見惚れる横顔なんて希少だなぁなんて、
素直さここに極まれりな、無垢なお顔に見とれておれば。
そんなこちらに気づいてだろう、
え?という意外そうな顔になってから、
「観ないんですか?花火。」
あ、ほら。今度のはちょっと変わってて綺麗ですよ、と。
促してる途中で自分の方が見惚れてしまい、
わぁと感嘆してしまう語尾ごと、嬉しそうに笑う横顔こそ、
ああこれは見逃しては惜しい逸物だと、ついつい視線が外せない。
「…も〜。僕の顔なんていつだって見られるじゃないですかッ。////////」
せっかくの花火なんですよ?
一緒に同じもの観て、わぁって感動したいのにぃという、
焦れたように言う敦の言い分も重々判るのだけれども。
どどぉんと 雷よりもやや軽やかな轟音とともに、
暗がりの中へたかだかと打ち上げられ、
稲穂のような火線が八方に広がって散り、
その先が柳の枝のよに垂れて消えゆく、余情たっぷりの大きいのが揚がって。
そんな華やかな光の幻想を素直に追い、
ちょっとだけ上にある連れの横顔が、曙の空みたいな綺麗な瞳が、
目映い閃光に浮き上がったあと、徐々に暗がりへ没してゆくのは、
何ともドラマティックで儚くて。
それこそ、なかなか得難い風景なものだから、
ついのこと、見とれてしまうのだけれども。
ああとか おうとか適当で気のない返事をしつつ、
やっぱり空を見上げないこちらに、もうもうと焦れてお冠になる前に、
せめて最後の大きいのくらいは観ようと
わざわざ気を入れて空の方を見上げれば、
「……。//////////」
「…どした。」
視線を感じて内心でやれやれと苦笑をし、
そのままわざとらしくも声を掛ける。
すると、薄く口許開けていたそのままハッとし、
ヤダヤダ、観ないでくださいよぉと、
まだ怒っているものか、いやいや照れ隠しに違いなかろう、
団扇でバチバチとこっちの二の腕叩いてくるから、
ああ、こいつとこういうベタなことを楽しむのはやめられない♪
〜 Fine 〜 17.08.25.
*短いですが、もたもたしている内に夏が終わっちゃいそうなので
フライング気味に書いてみました、花火見物。
スパダリな中也さん、何ならどっかのホテルのテラス席を貸し切りにして、
余裕の花火見物としゃれ込めもするのでしょうが、
こういういかにもなのが好きそうな、というか、
まだあんまり経験のなさそうな虎くんだろうと見越して、
初めてのはいかにもなバージョンでの見物としたようでございます。

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